投資家さんから、こんな質問をいただきました。
- 低圧蓄電池(例:12kW×18=216kWh)を100基作って分譲、分譲会社→投資家に運用益、運用はアグリゲーター…リスクは?
- FITみたいに「経産省が枠を作って、電力会社が買って、売電金が支払われる」仕組みと違うけど、どこが危ない?
結論から言うと、この手のスキームは“FIT型の安定収入”ではありません。
(そして、これは私の経験則ですが)この国のルール内の経済では、投資家だけが過度に儲け続ける構造は長続きしません。儲かり過ぎると、だいたい制度側が「バグ修正」を入れてきます。
今回で言うと、まさに“単価キャップ(上限価格)”の話がそれです。
以下、ブログ記事として整理して回答します。
1. まず「需給調整市場」と「一次調整力」を超ざっくり整理
系統連系蓄電池の多くは、電力のスポット売買(JEPX)だけでなく、需給調整市場(調整力の市場)での収益が重要になります。
需給調整市場は、送配電(一般送配電事業者)が周波数維持や需給差の穴埋めをするための「調整力」を市場で調達する仕組みで、**EPRX(電力需給調整力取引所)**が運営しています。市場は2021年に創設され、段階的に商品が揃っていき、2024年度から一次~三次②まで全商品で取引開始と整理されています。 Source
商品区分のイメージ(超重要なところだけ):
- 一次調整力:応動10秒以内、継続5分以上(超速い) Source
- 二次調整力①/②:応動5分以内、継続30分(速い) Source
- 三次調整力①/②:応動15~60分、継続30分(比較的ゆっくり) Source
そして根っこにあるのが、例の30分同時同量です。
発電事業者、小売電気事業者等は計画値同時同量制度の下、30分単位で計画と実績を一致させることとなっています。
Source
この「計画と実績のズレ」が、いわゆるインバランス(罰金・精算の世界)に繋がってきます。
2. 質問1:分譲×アグリゲーター運用の「リスクはありませんか?」
結論:リスクはあります。むしろ“リスクをとる”のは投資家側です。
分譲会社が「運用はアグリゲーターに頼むので安心です」と言ってくる構図、よくあるんですが、現実はこうなりがちです。
3-1. インバランス(同時同量)リスク:契約で投資家負担になりやすい
需給は瞬時に一致させなきゃいけない一方で、市場参加者側には30分同時同量の枠組みがあり、計画と実績の誤差・再エネ予測誤差・短周期変動などが問題になります。 Source
調整力は、その「読めない差」を埋めるために重要、とEPRX FAQにも明記されています。 Source
で、実務的には、アグリゲーターが“運用”をやっても、インバランスの金銭負担を誰が持つかは契約次第です。
よくあるのは、
- 表面:アグリゲーターが運用を受託
- 実態:罰金・精算(インバランス)を投資家側が負担(または投資家の取り分から控除)
という形です。
「リスクはアグリゲーターが負いますよ」と言われたら、契約書の条文で確認してください。口約束は無意味です。
3-2. アグリゲーター倒産リスク:FITより“カウンターパーティ”が増える
FITは極端に言えば「国の制度×電力会社×固定単価」で、投資家は“制度に乗る”だけでした。
一方、需給調整市場・蓄電池運用の世界は、投資家目線だと
- 分譲会社
- EPC(施工)
- O&M(保守)
- アグリゲーター
- 市場(EPRX等のルール)
- 一般送配電の運用・要請
と、関係者が増える=倒れる先が増える。
分譲会社が「うちが払います」と言っても、その会社が危うくなれば終わりです。
ここは“利回り”より先に見るべきポイントです。
3-3. バッテリー故障・劣化リスク:保険で完全には消えない
バッテリーは発電所のパネルみたいに「じわじわ落ちる」だけじゃなく、普通に止まります。
止まった瞬間、売上が止まり、場合によっては契約不履行(ペナルティ)にも波及します。
4. 質問3:FITと違う、この仕組み特有のリスク(=単価が固定じゃない)
ここが今回の本題です。
4-1. 価格変動リスク:「読めない」のが前提
FITは単価が固定でした。
でも需給調整市場は市場取引なので、単価は変動します。これはメリットにもなりますが、投資家からすると**“読めない”**が本質です。
加えて最近の論点が、次です。
4-2. ルール変更リスク:一次調整市場の単価キャップ(上限価格)
需給調整市場は、調達費用の高騰などを受けてルール見直しが継続的に議論されています。
実際に、EneHubの記事によると、EPRXが一次・二次①・複合商品のΔkW上限価格を「19.51円/ΔkW・30分」から「15円/ΔkW・30分」へ引き下げ、2026年3月14日実需給分から適用と報じられています。さらに競争状況次第で10円、7.21円等へ段階的に下げる可能性にも触れています。 Source
同様に、ユーラスエナジーの記事でも、一次調整力・二次調整力①の上限価格が「19.51→15円」へ変更見通しと説明されています。 Source
そして自然エネルギー財団は、上限価格引き下げや募集量削減を“同時に一気にやる”ことが市場の予見性を損ねる、と懸念を表明しています(数値として19.51円/ΔkW・30分にも言及)。 Source
ここで私の言いたいことはシンプルで、
- 儲かり過ぎる → キャップや募集量調整で“制度が勝つ”
- バグった利益(過大インセンティブ)は改修される
- そして改修コスト(収益低下)は、まず投資家に来る
ということです。
「生かさず殺さず」になっていくのが、だいたいこういう市場です。
5. 投資家向け:最低限チェックすべき“契約・構造”チェックリスト
分譲案件の相談を受けたら、私は最低限ここを確認します。
- インバランス(罰金・精算)負担は誰か:投資家?アグリゲーター?上限は?免責は?(条文で)
- 収益分配の定義:「運用益」って何の粗利?どの費用控除後?(手数料、電力費、基本料金、通信費、O&M、保険、税、予備費…)
- アグリゲーター変更権:投資家側に乗換え権があるか/違約金はあるか
- 倒産時のデータ・設備の引継ぎ:制御システム、SIM、アカウント、計測データ、BG関係、再委託先
- バッテリー保証の実態:容量保証・出力保証・免責、交換時の工事費負担、停止期間の扱い
- 制度変更条項:キャップ引下げ等が起きたとき、契約はどう改定されるか(“投資家だけ固定”になってないか)まとめ:この案件、やっていいか?の私の答え
- 分譲×アグリゲーター運用は、構造上「投資家に残るリスク」が必ずある(インバランス、倒産、故障、制度変更)。
- 最大の本質は「制度が固定ではない」こと。実際に一次・二次①などで上限価格見直しが進んでおり、15円/ΔkW・30分への引下げ(+段階的引下げ可能性)という話が出ています。 Source
→ つまり「儲かり過ぎるスキームは、国がそのままにはしない」可能性が高い。
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