電気自動車 日産リーフ EV普及のカギ「無線給電」 実証実験で何が分かったのか②

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■距離に問題ある電磁誘導方式

コンセント不要のワイヤレス給電技術には、「電磁誘導方式」「磁界共鳴方式」「マイクロ波方式」の3種の方法がある。

このうち大きなエネルギーを伝送しやすいのは電磁誘導で、磁界共鳴、マイクロ波の順に難しくなる。反対に、最も遠くまでエネルギーを伝送できるのがマイクロ波で、磁界共鳴、電磁誘導の順に距離を延ばすための難易度が高まる。

技術の成熟度合いで言えば、電磁誘導方式がすでに実用段階に入っているのに対して、磁界共鳴は実証段階、マイクロ波は基礎的な研究開発の段階だ。

電磁誘導はコイルを貫く磁界が変化すると起電力が発生する物理現象である。2つのコイルを並べ、片方のコイル(1次コイル)に電流(交流)を流すと磁界が発生し、その影響を受けたもう片方のコイル(2次コイル)に電圧が生じる。1831年に英国の科学者、ファラデーが発見し、今日、発電機や変圧器など多くの電気機器の動作原理に応用されている。

電動歯ブラシなどの充電で既に実用化している電磁誘導方式だが、電動バスにそのまま適用できるわけではない。電磁誘導方式にはコイル同士の距離が離れると給電が難しくなるという問題があるためだ。路面に敷設した送電部(1次コイル)から電動バスの床下に取り付けた受電部(2次コイル)への高効率な送電をどう実現するかが課題になった。

■送電距離延長で路面埋め込みが可能に

図3 電磁界解析による発生磁界のシミュレーションから、コイルの巻き方など送電装置と受電装置の最適設計を探り出した

電磁界解析による発生磁界のシミュレーションから、コイルの巻き方など送電装置と受電装置の最適設計を探り出した

早大グループは当初、ドイツ製の給電装置を取り寄せて実用性を評価したが、電力を送ることができる距離が5cmしかなく、そのまま電動バスに適用するのは適さないと判断した。当時、イタリア・トリノなどで始まっていた実証試験では、受電部をバスから機械的に下降させ、送電部に近づけて給電していた。だが、これではバスの機構が複雑になるうえ、充電作業を十分に軽減することにはならない。

そこで、早大グループは独自に送電距離を伸ばす開発に取り組んだ。発生磁界をシミュレーションする電磁界解析を駆使して、コイルの巻き方など設計の最適化を追求した(図3)。2005年に10cm、2010年には14cmまで延ばすことに成功した。

道路法上、公道に設置するには交通の障害にならないことが求められる。送電長10cmの段階では、箱形の送電装置を路上に設置して充電する必要があったが、送電長14cmの達成で路面への完全埋め込みが可能になった。長野で使っている装置は、路面から直接バス床下の受電部に35kWの大きな電力を90%以上の効率で給電できる。出力は電動バスの充電に十分適用可能で、効率はプラグ式と変わらないレベルを実現した。

■厄介な送受電装置の位置合わせ

だが、電磁誘導方式には使い勝手に問題がある。送電装置と受電装置の中心軸がずれると効率が極端に落ちるのだ。充電するには両者がほぼ正確に重なるようにバスを止めなければならない。運転技量が高いバスの運転士たちでも慣れるのに1カ月以上かかったという。一般のドライバーが日常生活で使いこなすのは容易とは言えない。

この問題を解消する技術として注目されるのが磁界共鳴方式だ。2006年に米マサチューセッツ工科大学(MIT)が実用化の可能性を発表した新しい技術で、電磁的な共鳴現象を利用してエネルギーを伝送する。同じ周波数で共鳴させる伝送原理のため位置ズレに強く、送電距離も電磁誘導方式より長く取れる。物理現象としては知られていたが、エネルギー伝達への応用はこれまでほとんど例がなく、技術発表時に公開した2m離れた電球を灯す実験は科学者たちを驚かせた。

ちなみにワイヤレス給電の3方式のうち、残るマイクロ波方式は、通信や放送にも使われている電波をエネルギーの伝送にも利用しようとする考え方だ。宇宙空間に太陽光パネルを設置し、地上に送電する宇宙太陽光発電構想を実現する送電技術として研究が進められているが、空間に広がる高エネルギーマイクロ波の人体への影響など解決すべき課題は多い。EVへの給電を想定した至近距離での送電実験も試みられているが、送電の効率はまだ低く、実用化までには時間がかかりそうだ。

(続く)

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