西日本新聞
半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)が、熊本県菊陽町に建設した工場に使う電力を全て再生可能エネルギーで賄う方針を示している。大量の電力が安定的に必要な半導体工場で、発電量が変動する再生エネを使うのはコストがかかるが、脱炭素化に取り組む「企業責任」や、大口顧客の要請に応えざるを得ない事情がある。再生エネ使用を打ち出す企業は九州でも広がっており、調達の動きが活発化する可能性がある。
「この土地を大切にし、環境に配慮した半導体製造に取り組む。再生可能エネルギーを100%使用することを誓います」。2月、TSMC熊本第1工場の開所式で、劉徳音会長(当時)は高らかに宣言した。同社は工場建設を進めている米アリゾナや独ドレスデンを含め、海外拠点の全電力を再生エネで賄う方針だ。 半導体工場は24時間365日稼働、回路を焼き付ける装置は先端領域になるほど使う電力も大きい。拠点とする台湾でTSMCが2022年に使用した電力量は約210億キロワット時。1社で台湾全体の数%に及んだ。 TSMCは個別の工場の使用電力量を公表していないが、大量になるのは必至だ。再生エネで発電した電力を使うには、自家発電や電力会社などからの購入がある。TSMCは調達手段を明かしていない。関係者によると、熊本第1工場では再生エネ由来であることを示す証書が付いた電力を購入する可能性が高いとみられる。
再生エネの発電量はまだ限られ、証書付きの電力は通常の電力よりも割高になる傾向がある。それでも全電力を再生エネにする背景には、“圧力”をかける顧客の存在がある。 「30年までに製品の製造を脱炭素化する」。米アップルは自社だけでなく、全世界の取引先に向けて再生エネ利用を求める。アップルはTSMCの最重要顧客。要請に応えることを確約している。TSMCの22年時点の再生エネ導入実績は10・4%。昨年9月、「100%達成」の目標年を50年から40年に前倒しした。 再生エネの利用は他社でも増えている。電子部品大手「ローム」が福岡県筑後市に建てた工場新棟も、100%再生エネの電力を使用する。九州経済産業局の関係者は「九州では半導体産業だけでなく、航空機のボーイングやエアバスなどに納品する企業も再生エネを求められている。欧米企業は環境や人権保護に厳しい」と解説する。
環境保護は企業責任や地域共生の「きれい事」(業界関係者)ではなく、ビジネス上の重要な要素だ。脱炭素化の世界的な潮流は、投資家や金融機関の姿勢も左右している。脱炭素化に消極的と受け止められれば、企業は取引や資金調達に響く懸念がある。 TSMCは、企業の環境面での持続可能性などを評価する世界的な投資指標で「23年連続で(優れた)銘柄として選ばれている世界唯一の半導体企業」とアピール材料にしている。 同社は菊陽町に第2工場を建設する方針を示し、日本の第3工場も検討している。熊本県の半導体メーカーの元経営者は「第3工場以降の展開では再生エネの供給能力が大きな選定根拠になる」とみている。
■再生可能エネルギー電力 主に(1)太陽光(2)風力(3)水力(4)バイオマス(5)地熱-で発電された電力。発電時に温室効果ガスを排出しないと位置付けられる。原発は対象外。発電量に応じて証書を付けるなどした電力が電力取引市場や相対取引で売買され、その電力を消費すれば再生エネ電力を使ったことになる。2022年度の国内のエネルギー需給実績によると、発電電力量に占める再生エネの割合は21・7%。
ここに来て抑制に関する良いニュースですね
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