農地を守るはずの制度が──営農型太陽光発電「規制強化案」の正体

(カテゴリ: ソーラーシェアリング)

農地を守るはずの制度が──営農型太陽光発電「規制強化案」の正体


まず確認したい。「ソーラーシェアリング」とは何のためにあったのか

農地の上に太陽光パネルを設置して、作物と電力を同時に生み出す。そのアイデアを「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」と呼ぶ。2013年に農地法の運用が変わり、一定の条件を満たせば農地の上空に太陽光パネルを設置することが認められるようになった。

このとき、その理念として掲げられていたのは何だったか。

農業の担い手不足、耕作放棄地の拡大、中山間地の過疎化という、日本農業が抱える構造的な問題への「自立的な解決策」だった。補助金に頼らず、売電収入という新たなキャッシュフローを農業に組み込むことで、小規模農家でも経営を続けられるようにする。農地を荒廃させることなく次の世代へと繋いでいく──。そういう思想が根っこにあった。

実際、長野県茅野市のような中山間地では、「太陽光発電をすることで田んぼが続けられている」という農家が現れた。少ない面積を耕作する小さなプレーヤーが地域農業を維持してきた。ソーラーシェアリングは彼らにとって、経営安定の「最後の砦」でもあった。

ところが今、農林水産省が検討している規制強化案は、その理念を根底から揺るがしかねない内容になっている。

山間地域に設置された営農型太陽

農水省の規制強化案、具体的に何を決めようとしているのか

2026年1月、農水省は「望ましい営農型太陽光発電の考え方の最終案」を有識者会議で公表した。内容を整理すると、大きく2つの法律を使った二本立ての規制枠組みだ。

農地法(改正)による規制

農山漁村再生可能エネルギー法(以下、農山漁村再エネ法)にもとづく設備整備計画の「認定見込みがない案件」については、農地法上の許可を与えない方針だ。つまり、農山漁村再エネ法の認定を受けられる見通しがなければ、そもそも農地に太陽光パネルを設置できなくなる。

農山漁村再エネ法(新設)による認定制度

この認定を受けるためには、以下の条件を満たす必要がある。

  • 年間50万円以上の農産物の生産・販売実績があること
  • 毎年収穫可能な品目を栽培し、販売ルートが確立していること
  • 発電設備の遮光率が30%未満であること
  • 地域計画(市町村が策定する計画)に位置づけられていること
  • 毎年度、事業者が実績報告を提出すること

さらに農水省は、栽培推奨品目として「米・麦・大豆」を明示した。食料安全保障に資する品目に絞り込むことで、「売電のついでに農業をやっている」ような事例を排除したいという意図が透けて見える。

一見、もっともらしい話に聞こえるかもしれない。だが少し考えると、この規制案が誰に向けられたものなのかが見えてくる。

 


「遮光率30%未満」という数字の罪

最も象徴的な問題が、遮光率30%未満という数値規制だ。

推進連盟の近藤恵代表が紹介したエピソードがある。規制案の報道を見た農家から「私が導入しようとしているのは遮光率31%なのだが、それだけで足切りになるのか」という問い合わせが届いたというのだ。たった1ポイントの差で参入できなくなる可能性──。それが現場の不安として広がっている。

そもそも、適切な遮光率は作物の種類や品種によって大きく異なる。ミョウガやキノコ類のように、むしろ日陰を好む作物もある。こうした品目はこの規制案の中で「望ましくない」と名指しされている。

有識者会議でも委員から「遮光率30%を超える設備でも適正に営農が行われている事例がある」「一律の数値設定は日陰を好む作物の排除やイノベーションの阻害につながる」という異論が出された。にもかかわらず、最終案は数値規制を維持した。

データが十分に蓄積されていない段階で、特定の数字を「規制の根拠」として法制化することは、科学的な合理性よりも「わかりやすく弾きやすい基準」を優先した結果ではないか。

 


この規制案が実行されれば、何が起きるか

現時点で、農山漁村再エネ法にもとづく地域計画を策定している市町村は、全国約1700市町村のうちわずか112にとどまっている。つまり、この規制案が実行されれば、地域計画のない1500以上の市町村では、原則として新たな営農型太陽光発電を始めることができなくなる

地域計画を策定していない自治体は「関心がない」のではなく、単純に人手と予算が足りないだけだ。農村部の小規模自治体がそれほどの行政的余力を持てるはずがない。この「地域計画の壁」だけで、多くの農家が入り口で弾かれる。

さらに、「年50万円以上の販売実績」「毎年収穫可能な品目の栽培実績」という条件は、構造的にすでに農業を営んでいる人しか満たせない要件だ。

売電収入を農業の起爆剤にしたい新規就農者はどうすればいいか。実績のない人が実績を作る場を、この制度は提供しない。入場する前に「実績があること」を求めるのは、これは制度設計のミスではなく、意図的な排除に見える。

加えて、紙ベースの手続きと毎年度の実績報告義務という負担が重なる。大企業やコンサルタントを抱える事業者にとっては、書類作りは「得意分野」だ。しかし、田んぼと向き合いながら一人で農業をこなしている兼業農家にとって、これは実質的な参入禁止に等しい。

 


現在営農している事業者にも影響は及ぶのか

「自分はすでに設備を設置しているから関係ない」と考える農家もいるかもしれない。だが、有識者会議でも「望ましい営農型太陽光の枠に収まらない既存事業者への対応が課題だ。一度設置した設備を変更することは現実的に困難だ」という指摘が出ている。

遮光率30%超のパネルを設置している既存事業者が、将来的に「不適切事例」として指導対象になるリスクは排除できない。毎年の実績報告制度の中で、基準を満たさない年が続けば、認定を取り消される可能性もある。

営農型太陽光発電は、設備の耐用年数が20〜30年にわたる長期的な投資だ。ルールを信じて設備投資をした農家が、後から遡及的に「望ましくない」とされるなら、それは政策への信頼そのものを損なう。

 


理念の放棄と、誰かの利益

ここで少し立ち止まって考えてみたい。

なぜ今、このタイミングで規制強化なのか。

表向きの理由は「不適切事例への対応」だ。パネルの下でまともに農業が行われていない、実態は売電専業なのに農地扱いを受けているケースがある──それは確かに問題だ。だが、不適切事例が一部に存在することと、参入条件をすべての農家に対して厳格化することは、まったく別の話だ。

不適切事例を排除するのであれば、事後的な監視・指導の強化で対応すればいい。入り口のハードルを上げることではない。持続社会連携推進機構の小池宏隆代表理事が指摘するように、「規制だけでは、規制をぎりぎりクリアする事例が増えるだけ」なのだ。

そして、この規制案によって最も恩恵を受けるのは誰か。

地域計画の策定コンサルタント、書類作成を請け負う事業者、そして大規模に農地を押さえて「適切な基準を満たした」証明を揃えることができる大企業や外資系の参入事業者だ。中小農家が弾き出された後の農地は、誰かにとっての「市場」になる。

韓国では、農地を農産物だけでなくエネルギーも生み出す場と位置づけつつ、「非農業系デベロッパー」を明確に排除する仕組みで営農型太陽光発電を国を挙げて推進している。農家が主役であることを制度が守っている。

翻って日本の規制案は、農家を守るふりをして農家を排除し、代わりに大きなプレーヤーへの扉を開く──そう読めてしまっても無理はない。

 


補助金バラマキとの比較で見えてくること

中山間地への補助金拡充という話も出てきている。農地の維持管理に対して直接的な金銭的支援を行う方向性だ。

もらう側にとっては、負担なくお金が入るのだから悪い話ではない。だが、財源はどこから来るのか。税金だ。毎年継続的に確保できる保証はなく、政権が変わるたびに方針が揺れるリスクがある。補助金は「依存」を生む。自立ではなく、依存の構造が農業の首を絞めてきた歴史は、すでに日本農業が証明してきた。

それに対して、ソーラーシェアリングの本来の強みは何だったか。補助金に頼らず、電力という市場価値のある商品を農地から生み出すことで、農業経営に自律的な収益の柱を加えることだ。市場メカニズムを活用した農地の持続的利用という発想は、農業政策の中でも異色の合理性を持っていた。

それを規制で潰して、代わりに補助金を配る。この方向転換は、農業の自立化という方針からの明確な後退だ。

 


現場が提言する「もう一つの道」

ソーラーシェアリング推進連盟は、規制強化に代わる制度設計として「総合得点評価制度」の導入を提案している。

内容はシンプルだ。「良い事例」に対して加点し、インセンティブを付与する。「合法だが望ましくない事例」には指導で改善を促す。入り口で全員を弾くのではなく、出口で評価して引き上げていく仕組みだ。

優れた取り組みをしている農家が評価され、支援を受けることで、同じような農家のロールモデルになる。「規制で排除する」のではなく「インセンティブで誘導する」という発想は、政策設計の常識から見ても理にかなっている。

加点方式に切り替えることで、新規就農者も「まずやってみて、実績を積んで、評価を受ける」というプロセスが可能になる。地域の農家がエネルギー収入を農業に生かし、有機農業の拡大や地方創生にも貢献できる。

 


農地は誰のものか

最後に、根本的な問いを立てておきたい。

農地は誰のものか。そして、誰のために守るのか。

農地法は、農地を「耕作者が所有すべきもの」として位置づけてきた。農業を担う人が農地を持ち、農地を守るという原則だ。

ソーラーシェアリングは、その原則の延長線上にある。小規模農家が、自分の農地で作物を育てながら電力も生み出し、収益を得て、次の世代へ農地を繋いでいく。これは農地法の精神と矛盾しない。むしろ、それを補強する仕組みだ。

規制強化案が目指す方向は、その精神とは逆行している。「規制をクリアできる大きな事業者」だけが農地に関われる制度を作ることは、農地の公益的な性格を形骸化させる。

農地は食料生産の基盤であり、地域コミュニティの基盤であり、景観と生態系の基盤でもある。それを守るためには、そこで生活し、耕す人たちが経営的に持続できる環境が必要だ。

今の規制強化案が進む先に、地域農業の持続可能な未来はない。

現場の声に耳を傾け、小規模農家が自立できる制度設計に立ち戻ること──それが今、農政に求められていることではないだろうか。

 


参考・出典

  • ソーラーシェアリング推進連盟「農水省『望ましい営農型太陽光発電に関する検討会』に対する意見表明」(2026年4月14日)
  • 農林水産省「望ましい営農型太陽光発電の考え方の最終案」(2026年1月23日有識者会議資料)
  • 農林水産省「2023年度末の営農型太陽光発電設備設置状況について」
  • 朝日新聞「農地で発電、門戸狭めないで…政府の規制強化案に提言 業界団体『真面目な農家の負担になる』」(2026年4月16日)
  • 『農業協同組合新聞』「『遮光率30%規制』不適切 中小農家が使いやすい仕組みに 営農型太陽光発電で提言」(2026年4月15日)
  • 自然エネルギー財団「営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)の国内外の動向」(参考)
  • 農林水産省「農山漁村再生可能エネルギー法の概要」(農村振興局)

本記事は2026年4月時点の情報をもとに作成しています。規制案の詳細は今後の国会審議・省令改正によって変更される可能性があります。

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