先日、日経エネルギーNextにこんなタイトルの記事が掲載されました。
「きちんと営農している案件は、ほぼゼロ」 千葉市の営農型太陽光・全27件調査の衝撃(2025年6月)
強烈な言葉です。読んだ瞬間、「千葉市の営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)は全件グレーか違法、あるいはすべて何らかの問題を抱えているのか」という最悪な印象を受けた方も少なくないのではないでしょうか。
有料会員限定記事のため、多くの人は見出しと冒頭しか読めません。そのため、「千葉市の営農型は全滅」という極論だけが一人歩きするリスクがあります。
そこで今回は、「本当に千葉市の案件はすべて違法状態なのか」「真面目にやっている事業者は風評被害として怒っていないのか、事業者側の反論はないのか」という疑問に焦点を当て、公開されている情報を読み解いてみます。
まず「営農型太陽光発電」とは何か、おさらい
農地に支柱を立て、上部に太陽光パネルを設置し、農業を続けながら発電も行う——それが営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)です。農業収入に加えて売電収入を得ることで農業経営を安定させ、耕作放棄地の増加や農業後継者不足といった社会課題の解決策として、農林水産省が2013年から推進してきた仕組みです。
2023年度末時点での全国の累計許可件数は約6,137件にのぼり、着実に普及してきました(農林水産省「営農型太陽光発電について」2026年1月)。
設置には農地法に基づく「一時転用許可」が必要で、毎年農作物の栽培実績と収支を農業委員会に報告する義務があります。従来は「周辺農地の平均収量の8割以上を維持すること」が更新の条件とされてきました(荒荒廃農地の再生活用については、この収量要件が緩和されています)。
問題の記事は何を言っているのか——読み取れる範囲で整理する
日経エネルギーNextの連載記事は、農業委員会の公開議事録を丹念に分析したものです。記事の冒頭で読み取れる主なポイントを整理します。
①「収穫ゼロでも支障なし」とされている案件が多い
農水省が毎年公表する資料では、全国の営農型太陽光で「下部農地に支障あり」の割合は24%(2023年度末時点)とされています。ところが記事は、農水省担当者への取材でこう聞き出しています——「資料中の”支障あり”の数値には、作物変更による収穫ゼロが続くようなケースは含んでいない」。つまり公式の24%という数字は、実態を過小評価している可能性があるというわけです。
②千葉市の案件は3つの時期に分類できる
記事では千葉市の営農型太陽光の歴史を3つに分けて分析しています。手探りの試行期(2013〜2014年)、サカキなどいわゆる”営農証明作物”への収束期(2015〜2019年)、そして「10年優遇措置で実態が見えなくなった不透明期」(2020年以降)——という変遷をたどり、「きちんと営農している案件はほぼゼロ」と結論づけています。
③調査の根拠は「公開議事録」という公的文書
一次ソースは農業委員会の議事録であり、記者の主観だけで書かれた記事ではありません。ただし、その議事録の解釈・判断は記者によるものであり、ここに異論の余地があるものと思われます。
「ほぼゼロ」は「全件違法」と同じ意味なのか?
ここが、この報道で最も慎重に読まなければならないポイントです。
「きちんと営農していない(と記者が判断した)」ことと「違法」は、法律上イコールではありません。
農地法の仕組みでは、収量が基準を下回ったからといって即座に違法・無許可になるわけではありません。まずは農業委員会からの指導・勧告が行われ、段階的に改善を促し、それでも改善されない場合に初めて許可取消しや原状回復命令へと進みます(農地法第51条等)。「問題がある」状態と「違法確定・行政処分済み」の状態には段階的な違いがあるのです。
実際に国レベルで動いた事例として確認できるのは、農水省と経済産業省が2024年8月に全国で342件(20事業者)に対してFIT(固定価格買取制度)交付金の一時停止措置を行ったケースです(農林水産省・資源エネルギー庁 2024年9月説明資料)。千葉市の27件がこの措置の対象(=明確な違法・ペナルティ対象)に含まれているかどうかは、公表情報からは確認できていません。
つまり現時点では、「千葉市の営農型太陽光は全て違法」という断言は情報として不正確であり、記事自身もそこまでは言っていないと認識しなければなりません。
「千葉市は全件違法」というレッテルに対する反論
では、肝心の「本当に千葉市の事業者はほぼ全件が何らかの問題を抱えているのか?」「真面目にやっている事業者側からの反論はないのか?」という点について、現場や業界の声をまとめていきます。
結論から言うと、「全件問題あり」「ほぼゼロ」といった極論の報道に対し、真面目に地域農業と向き合っている優良な事業者からは、深刻な風評被害への怒りと反論の声が上がっています。
①千葉市に実在する「国お墨付き」の優良事業者と、その実態
日経の報道が「千葉市の案件はほぼダメだ」と一括りにする一方で、実は千葉市緑区に拠点を置く千葉エコ・エネルギー株式会社という、業界を牽引する事業者が実在しています。
同社は、農林水産省自身が発行している「営農型太陽光発電 取組支援ガイドブック」に、国が推奨するモデル事例として実名で掲載されているほどの優良事業者です。
東京新聞などの取材によれば、同社は千葉市緑区の広大な耕作放棄地を自ら再生し、2,800枚の太陽光パネルの下でレタスやキャベツ、白菜、ジャガイモなどを真剣に栽培しています。年間2,000万円を超える売電収入を上げつつ、収穫した野菜は市内の卸売業者や直売所、飲食店へしっかりと出荷・販売しています。
それにもかかわらず、「千葉市の営農型はきちんとやっているところがほぼゼロだ」などとセンセーショナルに書かれてしまえば、彼らのような誠実な事業者は「自分たちまで名ばかりの違法業者と同じ目で見られる」という凄まじい風評被害を受けることになります。すべてを問題視するような図式に対して、現場が憤るのは当然と言えます。
②一律の「厳しい規制強化案」に対する業界全体の反論
この日経の報道や世間の批判的な目を背景に、農林水産省は2026年4月、営農型太陽光に対して「パネルの遮光率を30%未満に一律制限する」「栽培品目は米・麦・大豆に強く推奨する」という非常に厳しい新制度案を打ち出しました。
これに対し、全国の農業者やエネルギー事業者など約1,000名が参加する業界団体「一般社団法人ソーラーシェアリング推進連盟」は、現場を無視した一律規制に対して明確に異論を表明しています(事業構想オンライン、2026年6月)。
- 作物の特性を無視している:先述のキャベツやレタス、さらにはぶどう、ブルーベリー、緑茶など「あえて遮光が必要な作物」においては、遮光率30%以上が農業上むしろ有益である。一律の数値縛りは農業の進化を止めてしまう。
- 日本の農業を逆行させる:米・麦・大豆だけの推奨や、行政手続きの過度な煩雑化は、中小農家や新規参入者へのただの障壁になり、結果として耕作放棄地を増やすことになる。
このように、専門シンクタンクである自然エネルギー財団(2026年3月の提言)も含め、業界全体が「一部の悪質事例のせいで、真面目な事業者まで巻き添えにするような過剰規制をするな」と強く反発しているのです。
では、なぜこんなに問題が起きているのか——構造的な背景
真面目な事業者が風評被害に苦しむ一方で、なぜ千葉市をはじめとする一部の地域で「問題案件」が取り沙汰されてしまうのか。その構造的な背景にも触れておく必要があります。
農地は「農業しかしてはいけない」という用途制限があるため、宅地や雑種地に比べて売買・賃借コストが圧倒的に安く、固定資産税も極めて低いという特徴があります。一部のモラルの低い業者が、この「農地固有のコストの安さ」というメリットだけを目当てに、形だけの営農(名ばかり営農)をして発電収益だけを得ようとする抜け穴利用を行っているのは事実です。
特に今回の調査で、千葉市の案件に「サカキ・シキミ」などの観賞用植物が多く見られた点が指摘されています。これらは日本の神事・仏事用として正当な農産物ですが、「遮光に強く、収量の確認(ごまかし)が比較的容易である」ため、不誠実な業者が行政へのポーズ(営農証明)として悪用しやすいという側面があります。農水省自身もこうした実態を「深刻な懸念」と捉え、取り締まりの強化(2026年4月の新制度案)に動いたという経緯があります。
結論
日経エネルギーNextの調査報道は、農業委員会の公開議事録という公的文書に基づいており、問題のある事業者を炙り出したという意味での意義は認められます。一部にルール違反に近い「名ばかり営農」が存在するのは事実でしょう。
しかし、だからといって「千葉市の営農型太陽光はすべて違法だ」「すべての事業者が問題を抱えている」と「認識されかねない表現」は控えてほしいと思っています。
現に千葉市内には、耕作放棄地を青々とした優良農地に蘇らせ、国からもモデルケースと認められている千葉エコ・エネルギーのような誠実な事業者がプライドを持って活動しています。彼らにとって、今回の「ほぼゼロ」という表現は看過できない風評被害そのものです。
「一部の悪質な事業者の罪」を、「業界全体、あるいは地域全体の罪」として一緒くたにして叩くべきではありません。今求められているのは、真面目に農業と発電を両立させている先駆者たちの足を引っ張ることなく、悪質な「抜け穴業者」だけをピンポイントで排除するバランスの取れたルール設計です。
報道のセンセーショナルな見出しだけに惑わされず、私たちは現場のリアルな声や農水省の一次情報にも目を向け、冷静に推移を見守る必要があると思います。
【主な参考・出典】
・日経エネルギーNext「きちんと営農している案件は、ほぼゼロ 千葉市の営農型太陽光・全27件調査の衝撃」(2025年6月)
・日経エネルギーNext「下部農地の約8割が収穫ゼロ?農業委員会議事録が示す営農の現実」(2025年6月)
・日経エネルギーNext「土地代が激安で済む営農型太陽光、農水省が規制強化する理由」(2025年4〜5月)
・農林水産省・資源エネルギー庁「営農型太陽光発電事業に関するFIT/FIP交付金の一時停止措置について」(2024年9月説明資料)
・農林水産省「営農型太陽光発電について」(2026年1月更新)
・農林水産省「営農型太陽光発電 取組支援ガイドブック 2025年度版」
・自然エネルギー財団「ソーラーシェアリングの規制緩和を、新たな農業の成功事例を増やすために」(2026年3月)
・事業構想オンライン「遮光率30%規制に異論 営農型太陽光発電で中小農家が参入しやすい制度設計を提言」(2026年6月、JAcom農業協同組合新聞転載)
・ソーラーシェアリング推進連盟「農水省『望ましい営農型太陽光発電拡大検討会』への意見」(2026年2月)
・東京新聞「ちばのSDGs 千葉エコ・エネルギー ソーラーシェアリング 農業と太陽光を希望の芽に」(2022年)
・日本経済新聞「営農型太陽光発電、農水省が取り締まり強化」(2026年4月)
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