電気自動車(EV)は本当に道路を壊すのか?
2016年→2026年、日本のクルマはどれだけ重くなったのか
「EVは重いから、道路や橋を壊す」
最近、こんな言葉を目にする機会が増えました。
一方で、「いやいや、アルファードみたいな重い車は昔からあったでしょ?」という反論もよく聞きます。
では実際のところ、日本の道路では何が起きているのでしょうか。
本記事では、2016年と2026年の販売データを比較しながら、
クルマの重量がこの10年でどう変わったのか、そしてそれがインフラにどんな影響を与えうるのかを、土木工学の視点で整理してみます。
EVを肯定したい人にも、懐疑的な人にも、どちらにも一度立ち止まって考えてもらえる材料を提示するのが目的です。
この10年で、日本を走る「主力車」はどれだけ重くなったのか
まず注目したいのは、日本中の道路を日常的に走っている「販売台数の多い車」です。
一部の高級車ではなく、数が多い“主力車”がどう変わったかを見ることが重要です。
日本の販売上位10車種:重量と台数の推移
(2016年 vs 2026年想定)
| 2016年 車種名 | 販売台数 | 重量(kg) | 2026年 車種名 | 販売台数 | 重量(kg) |
|---|---|---|---|---|---|
| プリウス | 24.8万台 | 1,360 | N-BOX(軽) | 20.2万台 | 1,000 |
| N-BOX(軽) | 18.6万台 | 950 | ヤリス | 18.5万台 | 1,050 |
| アクア | 16.8万台 | 1,080 | カローラ | 15.4万台 | 1,350 |
| シエンタ | 12.5万台 | 1,320 | ノア/ヴォクシー | 14.8万台 | 1,650 |
| フィット | 10.5万台 | 1,010 | スペーシア(軽) | 13.5万台 | 920 |
| ノート | 10.2万台 | 1,030 | アルファード | 10.2万台 | 2,200 |
| ステップワゴン | 9.1万台 | 1,570 | ステップワゴン | 8.5万台 | 1,750 |
| セレナ | 7.3万台 | 1,600 | シエンタ | 8.2万台 | 1,350 |
| ヴェゼル | 7.3万台 | 1,270 | ヴェゼル | 7.8万台 | 1,400 |
| デイズ(軽) | 7.0万台 | 840 | プリウス | 7.5万台 | 1,450 |
平均重量
・2016年:1,203kg
・2026年:1,417kg
トップ10総重量
・2016年:約151万トン
・2026年:約176万トン
平均で約214kg、率にして約18%の増加。
総重量では25万トン以上が上積みされています。
かつては「1トン前後のコンパクトカー」が主役でしたが、
今は大型ミニバンやSUVが当たり前にランキング上位を占める時代になりました。
EVシフトがもたらす「重量の底上げ」
次に、2026年時点でのEV販売上位車種を見てみます。
2016年当時、EVは販売ランキングではほぼ存在感がありませんでした。
2026年:国内EV販売上位10車種(想定)
| 順位 | 車種名 | カテゴリ | 販売台数 | 車両重量(kg) |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 日産 サクラ | 軽EV | 3.8万台 | 1,080 |
| 2 | テスラ モデルY | SUV | 1.2万台 | 1,910 |
| 3 | 日産 リーフ | ハッチバック | 1.0万台 | 1,680 |
| 4 | 日産 アリア | SUV | 0.8万台 | 2,200 |
| 5 | テスラ モデル3 | セダン | 0.7万台 | 1,760 |
| 6 | トヨタ bZ4X | SUV | 0.5万台 | 1,920 |
| 7 | BYD ドルフィン | ハッチバック | 0.4万台 | 1,520 |
| 8 | BYD ATTO 3 | SUV | 0.4万台 | 1,750 |
| 9 | 三菱 eKクロスEV | 軽EV | 0.4万台 | 1,080 |
| 10 | ヒョンデ IONIQ 5 | SUV | 0.2万台 | 1,900 |
EV上位10車の平均重量は約1,680kg。
10年前にはほぼ存在しなかった「1.7トン級の車両群」が、今では毎年道路に加わっています。
これは「EVが悪い」という話ではなく、
バッテリーを積む構造上、重量が増えやすいという事実の話です。
軽EVと軽ガソリン車──「たった100kg」の意味
軽EVの代表格である日産サクラと、軽自動車の王者N-BOXを比べると、
重量差はおよそ100〜130kgです。
数字だけを見ると「大人2人分くらい」と思うかもしれません。
しかし道路にとって重要なのは、一度の差ではなく、何万回も繰り返されることです。
この100kg増が、毎日・毎時間・全国で積み重なることで、
舗装には確実に疲労が蓄積していきます。
「アルファードだって重いじゃないか?」への土木的な視点
確かに、アルファードや大型SUVは以前から2トンを超えていました。
では何が問題なのか。
決定的な違いは「数」です。
以前は、重い車は一部の高級車に限られていました。
しかし今は、かつて1.3トン前後だったクラスの車までが、1.8〜2.0トンに近づいています。
問題は「一部が重い」ことではなく、
「多くの車が重くなった」ことなのです。
土木工学の経験則「4乗則」
舗装工学には、よく知られた経験則があります。
道路への損傷度 ∝ 軸重の4乗
たとえば、
・1.2トン → 2.0トン(約1.67倍)
このとき、
・損傷度:1.67⁴ ≒ 7.7倍
重量は1.6倍程度でも、舗装へのダメージは7倍以上。
これが「クルマが少し重くなっただけで、維持費が跳ね上がる」理由です。
この理屈を突き詰めると、「家族人数課税」とか「体重課税」論にまで発展しかねません。
EV優遇税制が生む“不公平感”
自動車重量税は本来、
「重い車ほど道路を傷める → 多く負担する」ための制度です。
しかし現行制度では、
・EV:新車登録時+初回車検まで免税
・ガソリン車:重量に応じて満額負担
結果として、
2.2トンのEVが負担ゼロで、1.2トンのガソリン車が補修費を払う
という構図が生まれています。
これが、EVそのものではなく「制度」に対する不満として噴き出している側面もあります。
結論:これはEVの是非ではなく「適応の問題」
この10年で、日本のクルマは確実に大型化・重量化しました。
EVはその流れを象徴する存在ではありますが、原因のすべてではありません。
本当の論点は、
・バッテリーの軽量化
・重量や走行距離を反映した課税設計
・重荷重に耐える舗装・橋梁への更新
「EVは重いからダメ」という単純な話ではなく、
重くなる時代に、インフラと制度をどう合わせていくか。
そこにこそ、これからのモビリティ社会の本当の課題があります。
参考資料・出典一覧
- 日本自動車販売協会連合会(自販連):ブランド通称名別販売状況
- 全国軽自動車協会連合会(全軽自協):軽四輪車販売速報
- 国土交通省 道路局:大型車両の通行により道路に与える影響
- 日本自動車工業会(JAMA):自動車統計・平均車重推移
- 各自動車メーカー公式諸元表
今はマスコミを通して観測気球を上げている段階でしょうけど、世論の流れによっては増税になりそうな気配ですね。
重量税の免税に関しては確かに不公平感があるので、さっさとこの部分を廃止することで余計な走行課税導入論を封じてほしいものです。
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